糖尿病の運動療法

その1 どうして運動が糖尿病に効果があるのでしょうか?

(1)インスリン感受性が高まる
糖尿病では血糖を下げるインスリンというホルモンの効きが低下します。とくに肥満があるとその傾向が強く、運動によりそれが改善します。
(2)糖代謝の改善
体内の糖代謝に関連する酵素活性が改善され、血液中のブドウ糖を下げる方向に向かわせます。
(3)脂肪代謝の改善
血液中の中性脂肪やコレステロールを下げます。また運動により善玉コレステロールが増加します。
(4)心肺機能の改善
糖尿病の合併症である動脈硬化で低下した心臓や肺の働きを改善します。
(5)高血圧に対する効果
糖尿病では高血圧の合併頻度が高く、運動は血圧降下作用もあります。
(6)筋力強化、体脂肪減少、骨量減少防止
これらは運動の継続に大切なものです。
(7)ストレス解消
ストレスは糖尿病のコントロールの乱れの原因ともなり、その解消はコントロールに有益。

その2 どのような運動をどのようにすれば効果が出るのでしょうか?

(1)有酸素運動と無酸素運動
運動には歩行やジョギングのようにゆっくり息をしながら行う運動(有酸素運動)と、短距離走や重量挙げのように殆ど息を止めて短時間に行う運動(無酸素運動)とがあります。糖尿病の運動療法では有酸素運動が主体で、無酸素運動は補助的になります。
(2)運動療法の実際
運動メニューは個人の年齢、性別、運動能力、心肺機能、運動器障害などその他の疾患の合併などに応じて設定されますが、基本は有酸素運動、筋肉トレーニング、ストレッチングからなります。
有酸素運動はメインとなるもので、歩行、ランニング、自転車、水泳などがあります。泳がなくとも水中での歩行は水の抵抗があり、運動効果が増強します。また膝のなどに障害がある場合にも負担が減り、お奨めの運動です。なお平地での自転車運動は負荷が軽いので、速度、距離などで負荷を強めるといいでしょう。
筋肉トレーニングは筋力強化に効果的で、メインの有酸素運動を円滑に行うために重要です。無酸素運動の要素が強いのですが、それ自体にも糖尿病の改善効果もあります。
ストレッチングは故障予防のためには大切なものです。また運動後の筋肉痛などの改善にも役立ちます。

その3 どのくらい運動すればいいの?

各人の運動能力による個人差が大きいのですが、基本となる有酸素運動は30分以上必要です。もちろん疲れたら休みながらで充分です。では長ければ長いほどよいのでしょか。1回きりでは効果の出ないものですから、翌日に疲労や筋肉痛などを残さない程度で打ち切りましょう。
では週に何日くらい運動すれば効果が現れるのでしょうか。いくつかの実験データがあり、少なくとも週に3日以上の運動を行えば、その効果は確認されています。

メタボリック症候群の運動療法

そのわかったようでよくわからない病気⇒それがメタボリック症候群

Q 一言で言うとどんな病気?
A 肥満(内臓肥満=腹が出る)が原因で起こる生活習慣病(高血圧、糖尿病、脂質代謝異常)です。

Q もう少し詳しく言うと?
A 食べ過ぎ、運動不足に遺伝的要素が加わり内臓に脂肪が貯まると、身体がインスリン抵抗性となりインスリンが十分働けなくなります。その結果、血糖が上がり(糖尿病)、血圧が上がり(高血圧)、中性脂肪が増え、善玉コレステロールが減少します。

Q それがどうしていけないのですか?
A 上のいろいろな異常は全て動脈硬化を大きく進行させるものです。日本人の三大死因の心臓病と脳卒中の原因となります。ひとつでも危険なのに、メタボリック症候群ではいくつもの因子が重なるので、危険率は飛躍的に高くなります。

Q 治療はどうするのですか?
A メタボリック症候群の背景には現代人の不適切な生活習慣があり、それを是正することが最も重要です。日頃の食事と運動を心がけ、生活習慣を改善することで、メタボリック症候群が大きく改善することは既に証明されています。

Q では運動療法は?
A メタボリック症候群の運動療法については、いくつかポイントがあります。

その1 運動しても最初はそう簡単に体重は減りません。お腹も引っ込みません ⇒ でもそれでいいのです
 糖尿病教室でも話しましたが、運動で消費するカロリーは意外と少ないものです。だから運動だけで体重を減らそうとするのは難しいのです。でも運動療法の効果はすでに現れているはずです。運動でインスリン感受性が良くなるので、抵抗性が改善されます。運動を開始して体重はあまり変わらないのに血圧が下がり、糖尿病がよくなることは、しばしば見受けられます。

 体重コントロールも貯金と同じように考えてください。毎日少しずつコインを入れれば、貯金箱は1年後にはかなりの金額になっています。運動で消費するカロリーはわずかでも、半年、一年経てば膨大な量になります。大切なことは貯めることで、運動を続けることと、運動後に帳消しになるような飲食を避けることです。

その2 具体的な運動の仕方
 エネルギー消費を高めて脂肪を減らすためには、大腿筋などの大きな筋肉をダイナミックに動かす有酸素運動が効果的で、しかも安全です。歩行、水泳、水中歩行、社交ダンス、体操、サイクリングなどが勧められます。できれば毎日30分以上(少なくとも週3回以上)、週に180分以上を目標とします。一日の運動も何回かに分けても構いません。

その3 運動についての工夫
 歩くことは膝などに故障のない限り、いつでもどこでもできる運動です。歩行に較べると自転車による運動は格段に運動量が落ちます。まず自転車をやめることを私はお勧めしています。
 次に日常生活の中で歩くことを増やす工夫をします。通勤の途中で一駅前で降りて歩いたり、駅で電車を待つ間にホームを往復したりします。エレベーターやエスカレーターを使わないこともひとつです。このような工夫の成果を知る上で、万歩メーターは非常に役立ちます。
 歩く楽しさを知るようになれば、歩行距離はもっと延びます。公園や郊外の景色のよい所が近くになくても、街中の散歩を楽しみましょう。タウンウォッチングと呼ばれるものです。今まで歩いたことのない道には、新しい発見があるものです。小型のカメラを持って行けば、もっと楽しいものになるでしょう。
 歩行はいつでもできる運動ですので、いつでも歩けるように靴を考えましょう。別に運動靴でなくとも、最近はビジネスシューズでもウォーキング用がたくさん出ています。常に足元をきっちりしておくことにより、かなり故障が防げるはずです。